『衣食10』リリース記念
絶対忘れるな
インタビュー
(聞き手:張江浩司)
志賀が忙しすぎることからはじまった
ー『衣食10』の制作はいつごろからはじまったんですか?
志賀 これは言いたくない(笑)。
セルラ すごく昔だもんね。
志賀 2022年にはいろんな人に連絡を取り始めてるんですよ。
セルラ その年の1月に「これから作っていく曲のテーマ」を翠ちゃんがグループLINEにまとめてくれてて。「弱いwi-fi」、「仕事について」、「おしゃれの話にしたい」、「ティンカーベル初野さんをフィーチャリングしたい」とか書いてますね。私たちはテーマがある方が曲が出来そうだから、まずそれを決めようと。
アルバ この時にはもう「他人のトラックでやろう」って決まってたんだっけ?
セルラ もう「変なのっ!!」はあったよね。
志賀 そもそもは、川上ヒロムさんに「余ってるトラックがあったらちょうだい」ってお願いしたら4曲くれたんだよね。そのうちの2曲が「変なのっ!!」と「1P」になった。
セルラ 「ライブで新曲がやりたいね」って。
志賀 ヒロムさんがプロデュースしてたFeaturesにぜわすがフィーチャリングするかたちで「特筆性なき音楽家」という曲をやり、宮野弦士氏が作ってくれた「ハイパーフラット」があり、そこにまたヒロムさんがよさげなトラックを4つもくれて、「この方式はいいんじゃないか」と。
セルラ 志賀さんの提供仕事がすごく増えて、なかなかぜわすの曲が作れないのもあったんだよね。
志賀 シンプルに忙しくて。「もう無理無理」みたいな。「俺は何をどうやったって月に1曲がマックスなんだよ」って。あれもこれも引き受けてたらぜわすをやる暇がなくなっちゃった。
ーその状況を逆手にとるかたちでアルバムのコンセプトが決まったと。今回の収録曲はでき次第ライブでもやってましたよね。
志賀 全部やってました。志賀が作った「ここからファインサンキュー」だけは、この間のアルバムレコ発ではじめてやりましたけど。あれは2023年末にできた曲なので。
ー2022年9月に下北沢Flowers Loftで行われたワンマンで、「人のオシャレを笑うな」とか「8 O'CLOCK」とか既にやってましたし。
アルバ あのときが初披露だった気がする。
志賀 もうやってたのか。すげー前だな……。
翠れん 2023年は何をやっていたのかという(笑)。
セルラ 『FREE MY SOUL』(WAY WAVEとの8cmコラボシングル)も出したしね。
志賀 そう、2023年はWAY WAVEの年になったから。この曲もめちゃくちゃ時間かかっちゃったんだよな。WAY WAVEが好きすぎて。
上のラインも下のラインも順調に上昇
ーいままでの曲は、レコーディングした後にライブで披露する順番が多かったと思うんですけど、今回は逆ですよね。
志賀 そうそう、今までの反省点として、ラップも歌も録るときに慣れてなかった。今回はライブでやってたから、音源の声たちかなり良いです。
セルラ ライブでやっていくうちに正解のフローができあがっていくんです。たいていはそれが固まりきらないうちに録るんだけど、今回はみんな自分の中に正解があったよね。
志賀 みんなかなり熟達した状態だった。
セルラ クオリティが上がったよね。焦ってリリースしなくてよかったと思う。「ここからファインサンキュー」の出来もすごくいいんだけど、志賀さんのディレクションがよかったんですよね。「こういう声色で」とか、わかりやすい指示が多かった。
翠れん 志賀さんはディレクションが上手くなりましたよ。
アルバ それをみんなが再現できるようになったというのもあるよね。
ー確かに、4人の発声のキャラクターが一番はっきりと表れたアルバムだと思うんです。志賀さんのディレクション能力が上がったことが大きく関わってますよね。曲提供が増えたことで、ボーカルディレクションする場面も増えたことが関係してるんじゃないですか?メンバーじゃない、初対面の相手にはわかりやすくて的確な指示が必須だし。
志賀 ああ、そうかも。気付かなかったな。
セルラ たぶん志賀さん的に「この人はここまでできるけど、これ以上はできない」っていうラインがあって、メンバーにそれ以上は要求しないけど、少しだけそのラインが上がったというか。「絶対メシを食え」のレコーディングも、けっこう攻めてたんですよ。
志賀 みんなのスキルが上がったことによって「ここまでいけるっしょ」が今までより高く設定されてるし、同時に私の見極め能力の向上により、「もうちょい攻めてもいいのでは」も正確になったのかな。両方がマッチしたのかもしれないね。
ーみんなの100を把握していて、105を要求するとピリピリしちゃうから103でいこう、みたいな。
志賀 それと同時に、「80いけばいいだろう」っていう下のラインもあるんですよ。70をOKとするかどうか、みたいな。その下のラインが上がった感じはするね。個人的にはそっちのほうが大きいと思う。
翠れん 志賀さんから見ても「みんな上手くなったな」って感じるんですか?
志賀 たとえば「ここからファインサンキュー」の一番最初の翠れんさんのパートは、ちょっと不満があるんですよ。もうちょっといけたんじゃないかと思ってるんだけど、全然OKテイクではあるんだよね。85点くらい。前なら即採用になってたかもしれないなと。
翠れん 確かに、あそこは今聴くと自分で不満がある。レコーディングで志賀さんが「もっといけるんじゃない?」って言ってたのは本当だったんだなって(笑)。
ーみんなの100%が共通認識になったということですよね。今までは「私は100で歌ってるのに、なんで志賀さんは100だと思ってくれないんだろう」みたいなすれ違いが合ったと思うんですよ。「やれって言われるけど、そんなのできないよ!」が一番むかつくじゃないですか。
翠れん うん、わかる(笑)。
セルラ どっちも悲しいよね。
志賀 そのストレスは、今が一番ないかもしれないですね。
セルラ 「ここからファインサンキュー」でアルバさんが今まで出したことない変な声のパートがあるんですけど、あれも挑戦ですよね。
志賀 あれは志賀も正解が分からず仮歌を入れてて。今までだったら自分でやってたと思うけど、アルバさんに丸投げしてみた。ギャンブルできるようになったというか。
アルバ 自分でも再現できるかどうか分からないけど、とりあえずチャレンジしてみようかと。前だったら「できないです」って断ってたかもしれない。
翠れん あの部分は何テイクも録ったんですか?
志賀 早かったよね。わりとすぐ終わったはず。
セルラ DJでかけたときも「あそこはアルバさんなの!?」って言ってるお客さんいたし、レコ発で観てびっくりした人もたくさんいたみたい。
アルバ なんか、それも含めて志賀さんが求めるものを再現できるようになってきたのかなと思いましたね。
志賀 うん。正解が自分でもわからないパートだから投げたっていうところがあって、でもどうせできない人に投げてもできるわけないから。「できるかもしれないし、できないかもしれない」という状態ならお願いしたいなと。
エモいおばさんが観たいなら、ぜわすを観ろ
セルラ 最近、ぜわすを知らない人に音源をすすめたらいろいろ聴いてくれて、「前のアルバムに比べてめちゃくちゃ上手くなった」って言ってくれて。「恥ずかしさがなくなってる」って。
翠れん わかる!
セルラ 特に翠ちゃんの恥ずかしさがなくなってるって言ってた。
翠れん 音源だけじゃなくて、私は人生に恥ずかしさがなくなってきてる。
ーいや、ほんとに!「がんデモ」(インタビュワー張江が制作に関わっていたYouTubeのオーディション番組。ぜわすは2016年に行われたオーディションを勝ち進み、BAY CAMPに出演した)から知ってる身としては、アルバム『絶対忘れるな』のレコーディングの時点で、「すごく堂々としてる!」と思ったんですけど、最近はそれの比じゃないですもんね。
志賀 「がんデモ」のときに、張江さんが「エモいおばさんが見たい」って言ってたんですよ。まさに今の翠れんさんが「エモいおばさん」です。
ー一緒に「がんデモ」をやってた劔樹人さんと「エモいおじさんは飽和してるから、おばさんのエモもあるはず」という話をしてたんですよ。劔さんがやってる「あらかじめ決められた恋人たちへ」の「gone」という曲のMVがまさにそういう内容だったりして。
翠れん エモいおばさんが観たいなら、ぜわすを観ろ。
セルラ すごいいいよ。
志賀 しかも、普通の照れのあるおばさんから、エモいおばさんになったっていうところがいいよね。
アルバ 変遷が見られるからね。
ー映画みたいですよ。普通の主婦がラップでエンパワーされていくという。
セルラ そういう意味で翠ちゃんが一番HIP HOPだよ。
志賀 「人生で今が一番照れがない」って言ってたもんね。
セルラ 仕事でもすぐ人に聞けるようになったって言ってたね。
翠れん もじもじしてる時間が無駄だなって。
一同爆笑
志賀 すごいよね。でも、みんなそれが無駄だってわかってはいるじゃん。でも、それを体感したってことがすごいんだよな。
ーこのままだと翠れんさんがオンラインサロンを開いてしまうかもしれない(笑)。
翠れん 本とか出せるかな(笑)。
志賀 リイド社から出せばいいよ!(ぜわすを育休中のピーチジョン万次郎はリイド社勤務) そんで、谷口奈津子さんにコミカライズしてもらえばいい。
翠れん でも、私に限らずメンバーみんな照れがなくなってきましたよ。
セルラ 最初は「私たちみたいなもんがラップやってすいませんねぇ」みたいな気持ちがあったんだよね。
志賀 普通のサラリーマンがやってます、みたいなね。
ー最初は確かにそれがぜわすの面白さの一部だったんだけど、それだけで続けていくのはつらいじゃないですか。嘘っぽくなるし。そのエクスキューズに頼らず、どんどん曲も良くなるし、スキルは上がるし、音も良くなるし、知り合いもお客さんも増えるし。
志賀 こいつら意外とガツガツやるな!っていう(笑)
セルラ 商売っ気あるんだよね(笑)。
志賀 いい意味で演者然とした感じになったなと思いますよ。
翠れん 「お客さんからお金をもらう以上はちゃんとやらないと」って、前より思うようにはなったかな。
志賀 お金もらっといて「下手ですいません」とは言えないよね。
ー例えば、「僕らは趣味でやってるんで、お金はいりません」というスタンスもあるわけじゃないですか。ぜわすは「お金をいただくから、クオリティを上げていきます」だから、健全ですよ。
志賀 活動にお金がかかってるからね。
セルラ そうそう、赤字にはしたくない。
翠れん 儲けたいんじゃなくて、回収したいんですよ。
アルバ マイナスがないかわりに、プラスもないよね。
志賀 この間のレコ発なんてさ、新アルバムの制作費、Tシャツとか物販、箱代、全部でちょうどプラマイゼロだよ!
アルバ 狙ってるかのようにちょうどゼロ(笑)。でも、それでお客さんが喜んでくれるんならね。
優劣の劣だとは、もう思わない
ーおこがましいですけど、みんなラッパー然としてきましたよ。
アルバ 昔はアイドルとの対バンばっかりだったじゃないですか。それももちろん楽しかったけど、ここ何年かはラッパーとの対バンも増えて、あんまり馬鹿にされないんだなということもわかってきて。セルさんが切り開いてきたところでもあるけど、ハハノシキュウさん、Dr.マキダシさんとか、ちゃんとHIPHOPの人ともコミュニケーションが取れる実感というか。認めてくれる人は認めてくれるんだなと。
志賀 ビクビクする必要はないなってわかってきたね。前はHIP HOPの人たちとジャンルが違うのは当然として、自分たちは優劣の劣の方だと思ってたけど、今は感じないかもしれない。
セルラ 確かに、「HIP HOPじゃなくてすいません」みたいなことはもう思わないかも。世の中的にも、いろんな曲にラップが入るのは普通になったし、K-POPも必ずラップしてるもんね。
ーこのアルバムは、言ってしまうと他人を巻き込んで作っているわけじゃないですか。健全な状態のグループじゃないとできないですよね。
セルラ さらに「下手ですいません」って言ってる場合じゃないですよ。
ー今までもフィーチャリングが多いグループではあったけど、これまでは胸を借りてるような意味合いもあったと思うんですね。特に「平日ナイトフィーバー」とかは。今回はぜわすの4人が先頭に立って、みんなを率いている感じだなと。
志賀 偉そうに聞こえちゃうかもしれないけど、ちゃんと我々主導で作れたというか。ペコペコしてお願いしたという感じではなく。
ーみんなも今のぜわすと一緒にやりたかったってことですよね。
セルラ ありがたいありがたい。
志賀 嫌だったら断るよ。嫌だったら断る人たちだし。
セルラ 誰からも断られなかったね。
翠れん いろんなライブに出てきた結果のつながりですよね。それが素晴らしい。
志賀 最初は提供してもらった曲だけでリリースするつもりだったんだよね。そしたらお客さんに「そろそろ志賀曲が聴きたいな」と言われて。アルバさんもそうだよね。
アルバ やっぱり志賀曲が好きなお客さんが多いと思うから、どこかで待ってると思ってたんですよね。
セルラ 私もお客さんから「ライブで志賀曲の比率が少なくなって、逆にその良さに気付いた」って言われた。
志賀 メンバーとお客さん、内と外からの圧力によって、もう作るしかないかと。
セルラ でも志賀曲が入ってよかったよね。
翠れん 本当によかった。
ーでも「ここからファインサンキュー」は志賀さんらしさだけじゃない曲ですよね。
セルラ 最近の志賀さんはああいう曲作るよね。ゆいざらすさんに提供した「かにチャーハン」とか「日本の夏 ゆいざらすの夏」とか。
志賀 昔から変な構成の曲は作ってみたかったんだけど、なんか上手くいかないような気がしてたのよ。でも、ゆいざらすさんなら変な曲でもいいかって(笑)。最近のK-POPもすごい展開の曲が多いし。ゆいざらすさんとK-POPがおれを自由にしてくれた。
ーいろんなタイプのミュージシャンに曲を書くことで、作家としての振れ幅も広がりますよね。
志賀 それで、今のぜわすならこれくらいの変な構成も大丈夫だろうと。本当に私は自由です。
セルラ すごいいい話だ。みんな解き放たれてるね。
志賀 もじもじしなくなったし。
翠れん もじもじしてる時間はない!
ー2024年は結成15周年イヤーですけど、アニバーサリー的なことは予定してますか?
翠れん イベントやりたいけど、企画するの大変だからなあ……。
セルラ Tシャツフェスやりたいんだよね。いっぱいTシャツ作ってきたから、歴代のTシャツ着てきた人は無料みたいな。
志賀 無料!? 会場が阿佐ヶ谷家劇場じゃないと無理だよ!でも、今まで関わってくれた人がみんな出てくれるようなイベントはやりたいかもね。
アルバ エイジアでのワンマンが楽しかった思い出があるから、コラボした人を全員呼ぶライブはやりたいですね。
志賀 10周年のときにやった、振り返りのトークイベントもまたやってもいいかも。
セルラ トークライブやりましょう。
アルバ 新曲は出しますか?
志賀 新曲はもう……厳しい!
セルラ 今年はもうライブやって全力で『衣食10』を売っていくってことでいいんじゃないですか。やっぱりこのアルバムすごくいいから。レコ発終わって一段落付いたけど、全然もっとみんなに聴いてほしいし。
志賀 またレコ発やってもいいもんね。
セルラ 全然やっていいですよ。私はこのアルバムの良さをもっと広めたい。
翠れん 本当にね。今までで一番いいですよ。
志賀 毎回、新しいのが一番いいよね。
絶対忘れるな『衣食10』
2024/2/4 RELEASE
1. ここからファインサンキュー
2. 住居
3. YO Wi-Fi
4. 変なのっ!!
5. 絶対メシを食え feat.ティンカーベル初野
6. 1P
7. 人のオシャレを笑うな
8. ふたりのrequirement
feat.ごいちー
9. 夢中人
逆featuring 来来来チーム
10. 8 O'CLOCK
ZWS-0003 ¥2500(税込)
※ライブ会場・通販限定盤
iTunes / Spotify / 他で配信中
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